ショーにときめく時間
6年ほど前、イギリス・ロンドンのハーマジェスティシアターで、ミュージカル 『オペラ座の怪人(Phantom of Opera)』を観劇したときのことを、未だ鮮明に覚えている。
一人旅でロンドンを訪れ、初日恒例の観光ランニングをしている際、そのシアターの前を通った。存在感のあるその歴史ある外観に魅せられ、その時ちょうど公演していた『オペラ座の怪人』は内容も知っていたので、是非観劇したいと午後にはチケットを買った。(ラストミニットでチケットを取ると、一人ということもあり、良い席が割安で手に入るのだ。)
会場に入った瞬間から、見事にその世界は作り上げられており、席に着き幕があくまで、ワクワクがとまらなかったものだ。 運営側が、音楽や照明、舞台セットで雰囲気を出しているのももちろんだが、何よりもそのショーを観劇するために集まっている人々の装いが、その会場を敬うような、その世界観にどっぷりつかる準備は万端です、と唱えているような装い。
オペラ座の怪人・ファントムを彷彿とさせるようなタキシードをきた男性。その時代のオペラ座に観劇にきている1人のようなクラシカルロングドレスに身を包み、オペラグラスを手にする女性。日本でよく目にする、『パンフレットはこちらですよ~』とか『トイレは並んでくださ~い』なんて光景は目にすることなく。。幕が開けるまで、各々がワインやカクテルを片手にその時間を存分に楽しむ。もちろん、パンフレットの販売もしているのだが、そのスタッフさえも、舞台にあがっても違和感のない衣装をまとい、その時代にはそのように売っていたであろうというクラシカルな売り子スタイルで、劇場をまわる。
街を歩いているときには見かけない、紳士淑女たちのその装いからも目が離せなかった。私も、なんとなくのイメージで黒のワンピースを着てはいったものの、もっとこの世界観にどっぷり入りこめるようなコーディネートをすればよかった!と自分の中途半端さに悔しくなったものだ。日本で劇団四季の『オペラ座の怪人』を観劇しに行った時なんて、仕事帰りだからとオフィススタイルで行ったのを更に思い出し、幕間に次の日の仕事のことを考えていたに違いないだろうと思い返す。せっかく確保した時間、チケット。それならば、その瞬間を思いっきり楽しむ。その世界に思いっきり浸る。だからこそ、かけがえのない時間になるのであろう。
それからというもの、旅の度に、ショーを楽しむ時間を設けている。 ニューヨーク・ブロードウェイでのマンマ・ミーアでは、その舞台になる海のごとく、青のドレスやシャツに囲まれ、最後は皆でABBAの曲と共に会場全体でダンスダンスダンス。キャッツでは猫をモチーフにした靴や尻尾をつけた子猫たち(観劇にきた親が子供さえも完璧な子猫の装いを!)に囲まれたり。
ウィーンでオペラを見た時なんて、日本でいう結婚式の花嫁が着るカラードレスばりのドレスをまとった女性たちがそれはそれは華やかな世界を創り出していた。ウィーンフィルのクラシックコンサートの会場では、男性は奏者ばりの正装。 ラスベガス・シルクドゥソレイユのショーでは、煌びやかなドレスやジュエリーに目を奪われ、とにかく人々のその観劇にのぞむスタイルも含め、その世界を楽しむようになった。
昨今では、ドレスコードのあるパーティや音楽フェスなども多く開催されている。 世界各国をまわっている、センセーションという音楽フェスティバルは真っ白の世界。その世界観からも、世界一美しいフェスティバルといわれている。会場はもちろんのこと、ドレスコードは全身白と完全に白一色の世界。別のカラーの洋服や小物をつけていたら、入れないシステムになっていた。世界トップクラスのDJもダンサーも、舞台装飾も白・白・白。4万人もの白をまとった人々が音に酔いしれ、目の前に繰り広げられる白の世界に酔いしれ、思いっきりその世界観を楽しんでいた。手にしたパンフレットには『過去でもなく、未来でもなく、今を祝福しよう』というメッセージ。まさに、その瞬間をいかに楽しむか。朝までオールナイトのイベントだが、2~3時間で退散しようと思っていた。しかしどっぷりその世界に浸かった私たちは、年甲斐もなく朝までコース。そのぐらい魅せられた世界だったのであろう。
日本でも、歌舞伎を見に行く際にお着物をまとうように、その場にふさわしい装いをするという考え方もある。が、『自分が思いっきりその世界観を楽しむ。』『ただの観客ではなく、その世界に参加する』という考え方で、その世界にどっぷりつかるのもまた良き時間ではないだろうか。ミュージカル、舞台演劇、ドレスコード付きのパーティ。チケットを手にしたあと、自分の装いを考えるところから観劇するまで、そのワクワクはずっと続くはず。
さて、あなたはどの世界を楽しみにお出かけされましょうか♡装いとともにその世界をどっぷり楽しんできてくださいまし!